2026.09.18

年金繰り下げの損益分岐点は?繰り下げ受給のメリット・デメリットを解説

年金繰り下げの損益分岐点は?繰り下げ受給のメリット・デメリットを解説

毎月支給される年金の額を増やしたいのであれば、「年金の繰り下げ受給」が選択肢に入ります。

では、年金の繰り下げ受給のメリット・デメリットはどのような点にあるのでしょうか?また、年金の繰り下げ受給の損益分岐点は、どこにあるのでしょうか?今回は、年金の繰り下げ受給の概要やメリット・デメリット、繰り下げ受給の損益分岐点などについて、お金のプロがくわしく解説します。

ハレノヒハレは「未来すべて、ハレになれ。」をコンセプトに、お客様の理想の未来につながる資産形成や家計の見直しなどのサポートを提供しています。年金の繰り下げ受給についてプロの意見を聴きたい際や老後資金に不安がある際などには、ハレノヒハレまでお気軽にご相談ください(ご相談したいことがございましたら「お問い合わせ」フォームからご入力をお願いいたします)。

▼この記事のポイント

  • 年金の繰り下げ受給とは、年金の受給開始年齢を遅らせること。
  • 年金を繰り下げると、1か月あたり0.7%年金額が増加する。
  • 年金繰り下げの損益分岐点は12年であり、70歳で受給を開始する場合は82歳、75歳で受給を開始する場合は87歳まで受給できれば受給総額が多くなる。

年金の繰り下げとは?

年金の繰り下げ受給とは、年金の受給開始時期を遅らせることです。

年金は、原則として65歳から受給できます。しかし、この受給開始時期を最大60歳まで前倒しにしたり、最大75歳(昭和27年4月1日以前生まれの方は、最大70歳)まで後ろ倒しにしたりすることも可能です。

受給開始時期を前倒しにして早めることを「繰り上げ」、後ろ倒しにして遅らせることを「繰り下げ」といいます。

年金の繰り下げ受給のメリット

年金の繰り下げ受給には、次のメリットがあります。

  • 1か月あたりの年金受給額が最大で84%増える
  • 年金の増額が一生継続される

それぞれについて解説します。

1か月あたりの年金受給額が最大で84%増える

年金の受給を繰り下げると、支給される年金が、繰り下げ1か月あたり0.7%増額されます。

増額割合は、0.7に繰り下げる月数を乗じることで簡単に計算できます。たとえば、1年間繰り下げる場合の増額率は8.4%(=0.7%×12か月)、5年間繰り下げる場合の増額率は42%(=0.7%×12か月×5年)です。

そして、繰り下げができる最長年齢である75歳まで10年間繰り下げる場合、年金受給額は84%(=0.7%×12か月×10年)増額されます。これらをまとめると、次のとおりとなります。

繰り下げ年数(受給開始年齢)増額率
1年間(66歳)8.4%
5年間(70歳)42.0%
10年間(75歳)84.0%

参照元:年金の繰下げ受給(日本年金機構)

仮に、本来の年金額が200万円である方が年金の受給を75歳まで繰り下げる場合、1年間あたりに受け取れる年金額は368万円(=200万円+200万円×84%)になるということです。

年金の増額が一生継続される

繰り下げ受給による年金の増額は、一生涯継続されます。

たとえば、75歳まで年金を繰り下げ、年金額が84%増えたとします。この場合、その方が仮に100歳を超えるまでご存命であったとしても、亡くなるまでずっと184%分の年金が受給できるということです。

年金の繰り下げ受給のデメリット・注意点

年金の繰り下げ受給には、デメリットもあります。主なデメリットと注意点は、次のとおりです。

  • 年金が支給されるまでの期間の生活費を別の方法で捻出する必要がある
  • 早く亡くなると年金受給の「総額」が少なくなる
  • 「元気なうちにお金を使いたかった」と後悔する可能性がある
  • 税負担が重くなる可能性がある
  • 医療費の窓口負担が重くなる可能性がある
  • 遺族厚生年金は増額されない
  • 繰り下げの待機期間中は加給年金が受け取れない

繰り下げ受給で後悔する事態を避けるため、デメリットも理解したうえで慎重に検討するとよいでしょう。それぞれのデメリット・注意点について解説します。

年金が支給されるまでの期間の生活費を別の方法で捻出する必要がある

年金を繰り下げ受給する場合、受給を開始するまでの間の生活費を別の方法で捻出する必要が生じます。

仮に70歳まで繰り下げるのであれば、70歳までの間は公的年金を受け取ることができません。そのため、年金に代わる何らかの方法で生活費を確保する必要があります。

年金の繰り下げ受給の検討は、生活費の捻出方法の検討とセットであると認識しておくとよいでしょう。

早く亡くなると年金受給の「総額」が少なくなる

年金を繰り下げ受給する場合、早く亡くなると受給の総額が少なくなる可能性があります。

繰り下げ受給の損益分岐点の目安は12年です。そのため、たとえば70歳まで受給を繰り下げる場合、82歳より前に亡くなると繰り下げ受給による「増額のメリット」が享受しきれず、損となる可能性があります。

損益分岐点の計算については、後ほど改めて解説します。

「元気なうちにお金を使いたかった」と後悔する可能性がある

年金の受給を繰り下げる場合、年金の受給を始めるころには体力が低下しており、自由に出掛けることなどが難しくなる可能性もあるでしょう。その結果、「元気なうちから年金を受給し、動けるうちにお金を使っておけばよかった」と感じて後悔するかもしれません。

特に、待機期間中に生活を切り詰める必要がある場合には、このような後悔が生じやすいといえます。そのため、この点も考慮したうえで繰り下げ受給をするかどうかを検討することをお勧めします。

税負担が重くなる可能性がある

繰り下げ受給をして1年あたりの年金受給額が増えると、納めるべき税金や社会保険料も高くなる可能性があります。年金から控除される可能性があるお金には、次のものがあります。

  • 所得税
  • 住民税
  • 国民健康保険料または後期高齢者医療保険料
  • 介護保険料

年金の受給額が増えれば、納めるべきこれらの税金や社会保険料も高くなります。特に、所得税は累進課税(課税対象額の増加に伴い、段階的に高い税率が適用される仕組み)であるため、増額の幅が大きくなる可能性があるでしょう。

このように税金や社会保険料が控除されることから、繰り下げ受給をして額面の年金額が増えたとしても、増額分がそのまま手取りとなるわけではありません。

医療費の窓口負担が重くなる可能性がある

繰り下げ受給をして1年あたりの年金受給額が増えることで、医療費の窓口負担が増える可能性があります。

医療費の窓口負担割合は70歳未満の方は原則3割です。(義務教育就学前の子どもは2割) そのため、70歳未満の段階では、繰り下げ受給による窓口負担額の増加はありません。

一方で、70歳以上の方の窓口負担割合は、所得区分によって次のように定められています。

所得区分判定基準窓口負担割合
70歳以上75歳未満75歳以上 (後期高齢者)
現役並み課税所得145万円以上3割3割
一定以上課税所得28万円以上2割2割
その他1割

繰り下げ受給によって1年間に受け取る年金額が増えれば課税所得が高くなるため、窓口負担割合が変わる可能性があります。また、高額療養費の上限額にも影響する可能性があるため、この点もあらかじめ確認しておくことをお勧めします。

参照元:医療費の一部負担(自己負担)割合について(厚生労働省)

遺族厚生年金は増額されない

遺族厚生年金とは、厚生年金保険の被保険者や老齢厚生年金の受給資格を満たした方が亡くなった際に、その方に生計を維持されている一定の遺族が受給できる公的年金です。

この遺族厚生年金の額を算定する際に、繰り下げ受給をしていたことは考慮されません。つまり、仮に70歳まで年金の受給を繰り下げた方が、ようやく年金を受け取れるようになった直後である71歳時点で亡くなったとしても、遺族厚生年金の額は繰り下げ受給をしなかった場合と同額になるということです。

参照元:

繰り下げの待機期間中は加給年金が受け取れない

加給年金とは、次の要件を満たす場合に加算して支給される年金です。

  1. 厚生年金保険の被保険者期間が、原則として20年以上あること
  2. 65歳到達時点で、その方に生計を維持されている一定の配偶者または一定の子がいること

しかし、加給年金は繰り下げの待機期間には支給されません。また、年金の受給を繰り下げても、加給年金は増額されないとされています。

つまり、65歳時点で加給年金の受給要件を満たしているにもかかわらず70歳時点まで年金の受給を繰り下げた場合、65歳から70歳までの間の加給年金の権利を単純に放棄することになるということです。

そのため、加給年金の対象となる場合には、この点も加味して年金を繰り下げるかどうかを慎重に検討する必要があるでしょう。

参照元:加給年金額と振替加算(日本年金機構)

年金の繰り下げ受給の損益分岐点となる年齢は?

年金の繰り下げ受給の損益分岐点となるのは、約12年です。これは、どの年齢まで繰り下げる場合であっても同じとなります。

たとえば、70歳まで繰り下げる場合は82歳まで、75歳まで繰り下げる場合は87歳まで年金を受け取ることができれば、受給総額が繰り下げ受給前を上回ることとなるということです。

これらについて、算定根拠などを解説します。

70歳で受給を開始する場合

年金の受給を70歳まで繰り下げる場合、損益分岐点となる年齢は82歳です。

70歳から年金の受給を開始する場合、65歳から69歳までの5年間の年金は受け取れません。65歳から年金を受け取った場合における年金額を仮に100とすると、この5年間の年金額(つまり、受け取れなかった年金額)は、次の額となります。

  • 受け取れなかった年金額=100×5年間=500

一方で、70歳まで年金の受給を繰り下げる場合、年金額は42%(=0.7%×12か月×5年)増額されます。つまり、本来「100」であったはずの年金額が、「100+42」になるということです。

受け取れなかった年金総額である「500」を増加分の「42」で割ると、次のとおりとなります。

  • 500÷42=11.904…

つまり、70歳から約12年間(つまり、82歳になるまで)年金を受給できれば、受け取る年金の総額が「受け取れなかった5年間分の年金の総額」を上回ることとなります。

75歳で受給を開始する場合

年金の受給を75歳まで繰り下げる場合、損益分岐点となる年齢は87歳です。

年金の受給を75歳から開始する場合、65歳から74歳までの10年間分の年金は受け取れません。先ほどと同じく、65歳から年金を受け取った場合における年金額を仮に100とすると、受け取れなかった10年間の年金額の総額は、次のとおりとなります。

  • 受け取れなかった年金額=100×10年間=1,000

一方で、75歳まで年金の受給を繰り下げる場合、年金は84%(=0.7%×12か月×10年)増額されます。本来「100」であったはずの年金額が、「100+84」になるということです。そこで、受け取れなかった年金総額である「1,000」を増加分の「84」で割ると、次のとおりとなります。

  • 1,000÷84=11.904…

このように、75歳から約12年間(つまり、87歳になるまで)年金を受給できれば、受け取る年金の総額が「受け取れなかった10年間分の年金の総額」を上回ることとなります。

年金の繰り下げ受給で後悔しないポイント

年金の繰り下げ受給で後悔しないためには、次の4点のポイントを押さえておくとよいでしょう。

  • 額面の「損得」だけで考えない
  • 理想の老後と照らし合わせて検討する
  • 待機期間中の生活費の捻出方法を検討しておく
  • プロに相談する

額面の「損得」だけで考えない

年金を繰り下げるかどうかを、額面の「損得」だけで考えるのはお勧めできません。先ほど紹介したデメリットや注意点も十分に理解したうえで、ご自分が年金を繰り下げるべきかどうかを慎重に検討することをお勧めします。

理想の老後と照らし合わせて検討する

年金の繰り下げ受給で後悔しないためには、ご自分の理想の老後と照らし合わせて検討するのがお勧めです。

たとえば、「70歳まではバリバリと働きたい」と考えているのであれば、年金の繰り下げ受給をするのが適している可能性があります。一方で、「身体の自由が利きやすい60代のうちに、あまりお金の苦労をせずに過ごしたい」のであれば、繰り下げ受給をせずに65歳から年金を受け取る方がよいかもしれません。

これらの価値観や老後の「理想の形」は、人によって異なります。そのため、年金の繰り下げ受給をするかどうかは、ご自分の理想の老後を踏まえて検討するとよいでしょう。

待機期間中の生活費の捻出方法を検討しておく

年金の繰り下げ受給をする際は、年金の受給を開始するまでの期間の生活費の捻出方法を検討しておく必要があります。年金を受給するまでの間の生活費が不足すれば、生活が苦しくなり、繰り下げ受給を後悔するかもしれません。

待機期間中の生活費の主な捻出方法としては、次のものが検討できます。

  • 働いて収入を得る
  • 株式投資による配当や不動産賃貸などで収入を得る
  • 資産を取り崩す
  • あらかじめ個人年金保険に加入し、そこから年金を受け取る

これらを複数組み合わせて、生活費を確保することも可能です。

プロに相談する

「年金を繰り下げるかどうか」や「何歳まで繰り下げるべきか」などの判断に迷ったら、プロに相談するのがお勧めです。プロに相談することで、ご自分の老後の生活設計や資産状況、理想とする老後生活などを踏まえた的確なアドバイスを受けられるでしょう。

ハレノヒハレは「未来すべて、ハレになれ。」をコンセプトに、お客様の理想の未来につながる資産形成や家計の見直しなどのサポートを提供しています。老後の生活費に不安がある際や、年金の繰り下げ受給の判断に迷っている際などには、ハレノヒハレまでお気軽にご相談ください(ご相談したいことがございましたら「お問い合わせ」フォームからご入力をお願いいたします)。

年金の繰り下げ受給に関するよくある質問

最後に、年金の繰り下げ受給に関するよくある質問とその回答を紹介します。

年金の繰り下げ受給が向いている人は?

年金の繰り下げ受給が向いているのは、次の人が挙げられます。

  • 65歳以降も、当面の生活に困らないだけの収入または資産がある人
  • 年金額が少なく、老後の生活費を増やしたい人
  • 健康状態などから、長生きする可能性がある人
  • 加給年金の対象となる配偶者・子どもがいない人

これらに該当する方は、プロに相談をしたうえで繰り下げ受給を検討するとよいでしょう。

年金の繰り下げ受給を避けた方がよい人は?

年金の繰り下げ受給を避けた方がよいのは、次の人が挙げられます。

  • 年金を受給できなければ、65歳以降の生活費の確保が困難となる人
  • 受け取った年金を、増額率以上の利率で自分で運用できる自信がある人
  • 健康状態に不安があるなど、損益分岐点に達する前に亡くなる可能性が高い人
  • 加給年金の対象となる配偶者・子どもがいる人

このような方が繰り下げ受給を選択すれば、後悔するかもしれません。

年金の繰り下げで後悔した場合の対処法は?

年金の繰り下げ受給で後悔した場合には、すぐに年金を請求して受給を開始するとよいでしょう。たとえば、「70歳まで繰り下げるつもりだったものの、67歳である今すでに生活が苦しくて後悔している」のであれば、67歳である現時点から受給を開始するということです。

また、まとまったお金が必要になっている場合には、年金を遡って受け取ることも可能です。遡れる期間は最長5年で、65歳時点までです。仮に、現在67歳であれば、65歳以降分を遡って受給できます。

ただし、この場合には遡って受け取る分だけではなく、以後受け取る年金にも増額率が反映されなくなることにご注意ください。なお、2023年4月からは「特例的な繰下げみなし増額制度」が始まっており、昭和27年4月2日以後生まれの方などが70歳以降に年金をさかのぼって請求する場合は、請求の5年前の日に繰下げの申出をしたものとみなされ、その時点までの増額率を反映した年金を受け取れます。ご自身がこの制度の対象となるかどうかは、日本年金機構やお近くの年金事務所、専門家に確認するとよいでしょう。 また、遡って受け取った分がまとめてその年分の所得となるため、税負担が重くなったり介護保険料などが高くなったりする可能性があることにも注意が必要です。

参照元:年金の繰下げ受給(日本年金機構)

まとめ

年金の繰り下げの概要や年金を繰り下げるメリット・デメリット、年金の繰り下げの損益分岐点などについて解説しました。

年金の繰り下げとは、公的年金の受給開始年齢を65歳よりも「遅らせる」ことです。年金を繰り下げることで、1か月あたりに支給される年金額が増額されます。

年金の繰り下げの損益分岐点となるのは12年です。つまり、繰り下げた年金の受給を開始してから12年以上生存すれば、繰り下げなかった場合と比較して、年金の受給総額が増えるということです。

ただし、これはあくまでも額面だけのことであり、実際に繰り下げ受給を検討する際は税金や社会保険料、医療費の窓口負担などの増加も加味しなければなりません。また、待機期間中は加給年金が支給されないことにも注意が必要です。

年金の繰り下げ受給では考慮すべき点も多いため、安易に決断するのではなく、プロへの相談をお勧めします。プロに相談することで、ご自分の理想とする老後の形を踏まえたアドバイスが受けられるでしょう。

ハレノヒハレは「未来すべて、ハレになれ。」をコンセプトに、お客様の理想の未来につながる資産形成や保険の見直しなどのサポートをしています。年金の繰り下げ受給や老後の生活費などについてプロによるアドバイスをご希望の際は、ハレノヒハレまでお気軽にご相談ください(ご相談したいことがございましたら「お問い合わせ」フォームからご入力をお願いいたします)。