認知症になると老後の手続きはどうなる?口座凍結時の対応方法もわかりやすく解説
認知症は、ご本人にとっては生活そのものに関わるテーマであると同時に、ご家族にとっては「本人に代わって何ができるのか」という手続き上の悩みにも直結するテーマです。
「親の口座が急に使えなくなってしまった」「本人の代わりに保険や不動産の手続きを進めたいけれど、どうすればよいかわからない」という中小企業の経営者の方や個人の方も多いのではないでしょうか。
実は、認知症による影響への備え方には一つの正解があるわけではありません。発症前か発症後か、財産の内容や家族関係、金融機関の対応方針によって、選べる方法は異なります。
今回は、認知症が老後の各種手続きに及ぼす影響を整理したうえで、成年後見制度だけに頼らない具体的な対応策を比較しながらわかりやすく解説します。
ハレノヒハレは「未来すべて、ハレになれ。」をコンセプトに、お客様の未来を「ハレ」にするために、個人、法人の皆さまの各種ご相談をお受けしています。認知症対策や老後の資産管理を検討したいという方はどうぞお気軽にハレノヒハレまでご相談ください。(ご相談したいことがございましたら「お問い合わせ」フォームからご入力をお願いいたします)
認知症になると、老後の手続きにどのような影響が出るのか
法律上、契約や財産処分などの手続きを有効に行うためには「意思能力」、つまり自分の行為の結果を判断できる能力が必要とされています。認知症が進行し、この判断能力が十分でないとみなされると、本人名義のままでは手続きが進められなくなる場合があります。
具体的には、次のような手続きに影響が出ることがあります。
- 預貯金の引き出しや口座の解約
- 不動産の売却や賃貸借契約の締結
- 生命保険・損害保険の解約や、契約内容の変更
- 遺産分割協議など相続に関する手続き
- 介護施設の入居契約など、身上監護に関わる手続き
これらは老後の生活資金や住まい、資産の承継に直結する重要な手続きばかりです。厚生労働省の推計では、2012(平成24)年に約462万人であった65歳以上の認知症の人が、2025(令和7)年には約700万人、高齢者の5人に1人に達すると見込まれており、決して他人事ではないテーマになりつつあります。
出典:厚生労働省「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」概要(2015年策定)
※この推計は2015年の策定時点のものであり、その後大きな見直しは行われていません。現時点での実態とは幅がある可能性がある点にご留意ください。
なお、手術など医療行為そのものへの同意(医療同意)については、成年後見人・任意後見人のいずれであっても代理することはできないとされています。医療行為への同意は本人の一身専属的な権利であり、後見人等の権限(財産管理・身上監護)には含まれないというのが、厚生労働省のガイドライン等でも示されている考え方です。ご家族が「後見人になれば医療同意までできる」と誤解しやすい部分ですので、この点は分けて理解しておくことが大切です。
出典:厚生労働省「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」
なぜ「口座凍結」が起きるのか
「口座凍結」とは法律用語ではなく、金融機関が本人の判断能力の低下を把握した際に、本人以外による引き出しや解約などの取引を制限する実務上の対応を指します。
金融機関が判断能力の低下を把握するきっかけとしては、窓口での本人とのやり取りの様子、家族からの相談、後見制度の利用に関する届出などが挙げられます。「まだ何も手続きをしていないのに、ある日突然口座が使えなくなった」というケースも少なくありません。
口座が凍結されると、ATMでの入出金や窓口での大口の引き出し、定期預金の解約、口座自体の解約などができなくなります。一方で、家賃や公共料金などの口座振替や、年金の振込自体は継続されることが一般的です。つまり、引き出しができない口座に、年金や配当などのお金は振り込まれ続けるという状況が起こり得ます。
このように、口座凍結は本人の財産を保護するための措置である一方、生活費や介護費用の支払いに支障が出る場合があるため、事前の備えが重要になります。
口座凍結された(されそうな)ときの現実的な対応策
「口座が凍結されたら成年後見人をつけるしかない」と思われがちですが、実際にはいくつかの選択肢があります。発症前に準備できるものと、発症後でも相談できるものに分けてご紹介します。
①全国銀行協会の指針に基づく金融機関への相談
全国銀行協会は2021(令和3)年2月18日、判断能力が低下した本人に代わって家族が預金を引き出す場合の考え方を示した指針を公表しました。この指針では、戸籍謄本などで家族関係が確認でき、かつ医療費や介護施設の請求書などで使いみちが確認できる場合には、生活費・医療費・介護費に限り、家族による引き出しに応じられる余地があるとされています。
出典:一般社団法人全国銀行協会「金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方について」(2021年2月18日公表)
<メリット>
- 既に口座が凍結されてしまった後でも相談できる
- 煩雑な法的手続きを経ずに、当面の資金を引き出せる可能性がある
- 特別な契約や事前準備をしていなくても利用を検討できる
<デメリット>
- あくまで指針であり、対応するかどうかは金融機関ごとの判断に委ねられている
- 引き出せる金額や用途が限定的で、根本的な解決にはならない
- 毎回、請求書などの資料提出を求められる場合がある
<こんな方に向いています>
- すでに口座が凍結されてしまい、当面の生活費や介護費用に困っている方
- 事前の対策をしないまま認知症が進行してしまった家庭
②代理人予約制度・代理人指名手続き(金融機関の任意代理人サービス)
多くの金融機関では、本人が元気なうちに家族などを代理人としてあらかじめ登録しておく「代理人予約制度」「代理人指名手続き」と呼ばれるサービスを用意しています。代理人登録後は、本人による取引も引き続き可能で、本人の判断能力低下が診断書等で確認された段階から、代理人による窓口取引が開始される仕組みが一般的です。
<メリット>
- 本人が元気なうちに簡単な手続きで準備できる
- 成年後見制度に比べて手続きの負担が軽い
- 本人の意思をあらかじめ反映させやすい
<デメリット>
- 代理人が行える取引は窓口出金など一部に限られ、上限額が設けられていることが多い
- 不動産の売却や契約行為など、財産管理全般には対応できない
- 金融機関ごとにサービス内容や名称が異なり、事前確認が必要
<こんな方に向いています>
- まだ判断能力に大きな問題はないが、将来に備えて簡単な準備をしておきたい方
- 大きな資産管理までは求めておらず、日常的な出金の備えで十分な方
③家族信託(民事信託)
家族信託とは、本人(委託者)が信頼できる家族(受託者)に財産の管理・処分を託す契約です。信託契約に基づいて財産の名義を家族に移すことで、本人の判断能力が低下した後も、契約で定めた範囲内で預金の管理や不動産の売却などを継続できる点が特徴です。
<メリット>
- 本人の意思が反映された契約内容に基づき、柔軟な財産管理・処分ができる
- 成年後見制度と異なり、不動産の売却などに家庭裁判所の許可を要しない
- 受託者への報酬を任意に設定でき、家庭裁判所への定期報告も不要な場合が多い
<デメリット>
- 契約時点で本人に十分な判断能力があることが前提となる
- 公正証書での契約書作成など、専門家によるサポートが望ましく、一定の費用がかかる
- 身上監護(介護施設の入居契約など)はカバーされない
<こんな方に向いています>
- 不動産や自社株など、将来的に売却や運用の可能性がある資産をお持ちの方
- まだ判断能力がしっかりしているうちに、早めに備えておきたい方
④任意後見制度
任意後見制度は、本人が判断能力のあるうちに、将来判断能力が低下した場合に備えて、あらかじめ任意後見人となる人と支援内容を契約で定めておく制度です。判断能力が実際に低下した段階で、家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで契約の効力が生じます。
<メリット>
- 後見人になる人や支援内容を、本人の意思であらかじめ決めておける
- 財産管理だけでなく、介護施設の入居契約など身上監護に関する事務も委任できる
- 法定後見制度に比べて、本人の意向を反映しやすい
<デメリット>
- 契約発効後は任意後見監督人への報酬が発生する
- 家族信託に比べると、不動産売却など財産の積極的な運用の自由度は低い
- 契約時点で本人に判断能力があることが前提となる
- 手術等の医療行為への同意権までは含まれない
<こんな方に向いています>
- 財産管理だけでなく、介護に関する手続きも含めて備えておきたい方
- 信頼できる家族や専門家に、将来のことを具体的に託しておきたい方
⑤法定後見制度(成年後見・保佐・補助)
法定後見制度は、すでに判断能力が低下した後に、家庭裁判所に申立てを行い、本人の判断能力の程度に応じて成年後見人・保佐人・補助人を選任してもらう制度です。口座凍結が解除されるのは、基本的にこの制度を利用した場合に限られます。
<メリット>
- 判断能力が既に低下した後でも利用できる
- 後見人が本人に代わって財産管理や契約行為を行えるようになる
- 不正な財産流出を防ぐ仕組みが整っている
<デメリット>
- 申立てから後見人選任までに数か月程度かかることが多い
- 家庭裁判所が選ぶ専門家(弁護士・司法書士等)が後見人になるケースもあり、家族の意向どおりにならない場合がある
- 財産の積極的な運用や相続税対策としての活用は基本的にできない
- 後見人への報酬が継続的に発生する
- 手術等の医療行為への同意権までは含まれない
<こんな方に向いています>
- 既に判断能力が低下しており、他の対策を準備する時間がなかった方
- 第三者による客観的な財産管理を望む方
各対応策の比較まとめ
以下のとおり、各対応策の比較表をまとめました。
| 方法 | 利用できるタイミング | 手間・費用 | 自由度 | 注意点 |
| 全銀協指針に基づく相談 | 発症後(凍結後)も可 | 資料提出のみで比較的軽い | 生活費・医療費等に限定 | 対応は金融機関の判断次第 |
| 代理人予約制度 | 発症前の準備が必要 | 手続きは簡易、追加費用は少ない | 窓口出金など一部に限定 | 金融機関ごとに内容が異なる |
| 家族信託 | 発症前(判断能力があるうち) | 契約書作成等でまとまった費用が必要 | 契約範囲内で高い自由度 | 身上監護はカバーされない |
| 任意後見制度 | 発症前(判断能力があるうち) | 契約時の費用+発効後の監督人報酬 | 財産管理・身上監護双方に対応(医療同意は対象外) | 財産の積極運用には不向き |
| 法定後見制度 | 発症後(判断能力低下後) | 申立てに数か月、継続的な後見人報酬 | 低い(家庭裁判所の管理下、医療同意は対象外) | 後見人を家族が選べない場合がある |
対応策を選ぶ際のポイント・注意点
まず意識していただきたいのは、「発症前」にできる備えと「発症後」に取れる対応は大きく異なるという点です。代理人予約制度・家族信託・任意後見制度は、いずれも本人に判断能力があるうちにしか契約できません。一方、法定後見制度や全国銀行協会の指針に基づく相談は、既に判断能力が低下した後でも利用できる数少ない選択肢です。
つまり、元気なうちに準備をしておくほど、選べる選択肢は広がり、本人の意思をより反映した形で老後の資産管理を行うことができると考えられます。
また、金融機関によって代理人制度の名称やサービス内容、全銀協指針への対応姿勢は異なります。取引のある金融機関に、どのような制度があるのかを事前に確認しておくことも大切です。
なお、成年後見制度・任意後見制度のいずれを利用しても、手術など医療行為そのものへの同意は後見人等の権限に含まれないとされています。医療同意が必要な場面では、引き続きご家族など本人に近い方の関与が必要になる点もあわせて押さえておくとよいでしょう。
どの方法が一番良いというものではなく、資産の内容やご家族の状況、本人の意向によって、ご自身に合っているかどうかが重要です。最終的な制度選択にあたっては、司法書士・弁護士・ファイナンシャル・プランナーなど専門家への相談をおすすめします。
早めの備えが老後の安心につながる理由
認知症による手続き上の影響は、本人にとっては「自分の財産が自分の意思で使えなくなるかもしれない」という不安に、家族にとっては「介護費用や生活費をどう工面すればよいのか」という現実的な負担につながります。
代理人予約制度や家族信託、任意後見制度といった選択肢は、いずれも判断能力が十分なうちに準備しておくことで、本人の意思を反映した形で将来に備えることができる仕組みです。早めに話し合い、準備をしておくことは、ご本人の安心だけでなく、ご家族の負担軽減にもつながると考えられます。
よくある質問
Q. 認知症と診断された瞬間に、口座は凍結されるのですか?
診断された時点で自動的に凍結されるわけではありません。金融機関が窓口でのやり取りや家族からの申告などを通じて判断能力の低下を把握した時点で、取引の制限が始まることが一般的です。
Q. 家族であれば、通帳と印鑑があれば本人の口座から引き出せますか?
本人の判断能力に問題がない間はご家族による代理での引き出しも可能な場合がありますが、判断能力の低下が金融機関に把握されると、家族であっても本人以外の引き出しは制限されるのが原則です。
Q. 家族信託と成年後見制度は、どちらを選べばよいですか?
不動産の売却や資産運用まで柔軟に行いたい場合は家族信託、財産管理に加えて介護に関する手続きも含めて第三者的に管理してほしい場合は任意後見制度や法定後見制度が向いていると考えられます。資産内容やご家族の状況によって適した制度は異なります。
Q. すでに認知症の症状が出ている場合、家族信託は利用できますか?
家族信託は契約行為であるため、本人に契約内容を理解できる判断能力が残っていることが前提となります。症状の程度によっては契約できる場合もありますが、公証人による確認等が必要となるため、早めに専門家にご相談されることをおすすめします。
Q. 代理人予約制度は、どの金融機関にもありますか?
多くの金融機関で同様のサービスが用意されていますが、名称や利用条件、代理人が行える取引の範囲は金融機関によって異なります。お取引のある金融機関に個別に確認することをおすすめします。
Q. 後見人がついていれば、手術の同意なども代わりにしてもらえますか?
いいえ。成年後見人・任意後見人には、財産管理や介護施設の入居契約などを代理する権限はありますが、手術など医療行為そのものへの同意権は法律上認められていません。医療同意が必要な場面では、引き続きご家族など本人に近い方の関与が必要になります。
Q. 何から始めればよいですか?
まずはご本人・ご家族で、どの財産について、誰が、どこまで管理できるようにしておきたいかを話し合うことから始めるとよいでしょう。そのうえで、司法書士・弁護士・ファイナンシャル・プランナーなど専門家に相談しながら、具体的な制度を検討することをおすすめします。
まとめ|認知症への備えは「元気なうちの選択肢づくり」が重要
認知症は、本人の暮らしだけでなく、預貯金の引き出しや不動産の処分、相続手続きなど、老後のさまざまな手続きに影響を及ぼす可能性があります。口座が凍結された場合も、成年後見制度だけでなく、全国銀行協会の指針に基づく相談や代理人予約制度といった選択肢があることを知っておくことは、いざというときの安心材料になります。
そのうえで最も重要なのは、判断能力があるうちに、代理人予約制度・家族信託・任意後見制度といった選択肢の中から、ご本人・ご家族に合った方法を選び、準備を進めておくことです。制度にはそれぞれメリット・デメリットがあり、どれか一つが正解というわけではありません。
ファイナンシャル・プランナーとして、認知症対策や老後の資産管理についてもご相談をお受けしています。ハレノヒハレは「未来すべて、ハレになれ。」をコンセプトに、お客様の未来を「ハレ」にするために、個人、法人の皆さまの各種ご相談をお受けしています。認知症対策や老後の資産管理を検討したいという方はどうぞお気軽にハレノヒハレまでご相談ください。(ご相談したいことがございましたら「お問い合わせ」フォームからご入力をお願いいたします)
参考出典一覧
・厚生労働省「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」概要
・一般社団法人全国銀行協会「金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方について」(2021年2月18日)
